「オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える」 著者 木村 元彦


オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える


サッカー日本代表の新しい監督に就任したイビチャ・オシム氏を取材し、オシムの言葉オシムの考えやオシムユーゴスラビアなどで行ってきた監督としての仕事や人生をサッカージャーナリストの目で書いた本。


この本はスゴイ。オシムの監督人生のスゴさを堪能させられる。この本を読むと、本当に日本というサッカー後進国、しかもその中でもJリーグの中でもっとも規模の小さいクラブであるジェフ千葉の監督に就任してくれたと思う。しかも今度は日本代表まで!こんな幸せなことはあるのだろうか、と思うくらい、期待を高めてくれる本。


代表監督としてはユーゴスラビア代表の監督をやっただけであるから、決して経験豊富であるとはいえないが、そのユーゴ代表の時の経験はなかなか他の監督では体験できない経験をしている。イタリアワールドカップの時は世界中から絶賛されるような素晴らしいチームを作り上げることが出来た反面、当時のバルカンの政治情勢から政治的に辛い立場で代表監督をしている。マスコミともずいぶん戦った様子。オシムの言葉で「新聞記者は戦争を起こすことが出来る」というのがあったが、まさに実体験を通して感じたことなのだろう。マスコミの影響力の強さを認識していて、マスコミに使われないように、逆にマスコミを上手く使えるように工夫している様子が見える。ユーゴ代表の時はあまりにも民族意識が高揚してしまっているためあまり話すことは出来なかったようだが、ジェフの時はマスコミを通して選手に伝えたいメッセージなどを頻繁に出し、選手もマスコミという間接媒体を通して深い意識や考えを知ることによって気付くことがたくさんあったという。

監督は基本的に厳しい人。休むのは引退してからで良い、などなどプロに求めるものは非常に高い。これは決してサッカー選手だけでなくほかの分野でも当てはまると思うが、なかなか高い意識を維持し続けるのは難しい。でも厳しい反面、きっちり部下となる選手のことを見ていて、考えている、ということを上手く伝えているので、厳しいながらも選手は監督のことを尊敬しついていこうとしている。その手法は素晴らしい。


選手時代に来日したことがあるようで、その時に非常に親切にしてもらったから親日家であるという。だから代表監督になっても目の前の日本代表としての結果だけでなく、日本のサッカーそのものを育てようという意識を強く持ってくれているように感じる。サッカーだけでなくマスコミも鍛えていっている気もする。やはりユーゴ時代のマスコミの影響力をヒシヒシと感じたのだろう。


それにしても戦争で家族と離れ離れになりながら監督としてすごい実績を残している、ユーゴ代表において政治的になりすぎたことから、華の舞台である欧州選手権直前で代表監督を辞任したり、またその代表自体も直前で欧州選手権の出場資格が剥奪されてしまったり、とまさに激動の時代を過ごしている、というすごさをまざまざと感じた1冊。これはぜひとも読むべき本だと思う。


評価8.5(サッカー風で言う10点満点 平均点6点)