「出口のない海」 著者 横山 秀夫


出口のない海 (講談社文庫)


太平洋戦争時代、神潮特攻隊として使用されていた人間魚雷「回天」の乗組員の青春と「死」を迎える心の葛藤を描いた小説。


映画化が決まっている作品であるのだが、中身が重過ぎる・・・。映画として採用するのは悲劇すぎるのではないのか、という内容。特攻隊っという乗組員が絶対に死を迎える悲劇的な兵器が存在した、ということをまざまざと考えさせられる。でもあの悲劇的な戦争から60年たって、だんだんと風化されつつある中、戦争を知らない世代こそ読むべき本だと思う。


作品の主人公は大学生。同い年かやや若いくらいの青年の話である。同じ年齢で「死」と隣り合わせの状況にいる、というのはどういう心境なんだろう。主人公は当初特攻隊を、どんなものかも良く知らないで周りの熱に流され志願するのだが、中身が判明すると恐怖の状態に陥っていた。でもいつしか腕を積極的に自ら上達させて(上達したものから特攻していく)早く特攻したい、という考えに変わっていってしまう。それは主人公だけでなく周りの人間もそうなのだが。

生物の本能でも、必ず命が第一優先に守られるはず。しかも死を宣告させられながら逃げることも出来るはずなのに、休暇後も戻ってきて先に行きたがる、そういうのはどういう心理なのだろう。少なくとも特攻隊があったのは事実で、わずか60年前はそのような精神状態が蔓延していた時代。戦争の恐ろしさ、そして教育の恐ろしさを非常に表していると思う。


でもこれは決して過去の出来事ではないはず。イギリスで航空機爆破のテロ未遂が起こっているが、当然爆発物を持って機内に忍び込むテロリスト達は生還は考えていないだろう。ある意味特攻と言える。それが現在でもまかり通ってしまっている。

こういうのは明らかに異常なのではないだろうか!?でも日本でも昔から武士道を守るために切腹、だとかあるのだから一概に異常とも言えないのかもしれない。でもどういう世情になったら、どういう教育を施していったらこのような考えを持つ人間を大量に作り出せるのか。

太平洋戦争時代は死んだら靖国に奉られて神になる、とか、キリスト教イスラム教でも神に奉仕し、死んだら神の元へ行ける、という教えが強い。テロでもアラーのために、とか言っているけど、古今東西、このような異常な心理は宗教が深く関わっている感じがしてならない。

神になるのは死んだり破壊したりするから神になるのではなく、何かを創造するから神になれる。戦争やテロで一体何が創造されるのか!?宗教は確かに心の平穏をもたらすことが出来て、文化も発達でき、救いの精神を説いているのだが、反面かなり危険な発想がずっと備わっている、ということに注意しなければいけないと思う。そして太平洋戦争のような出来事や、多発するテロは宗教界のトップが強いメッセージを持って対処しないと決してなくならないと思う。


一億玉砕と叫んでいた軍部も、天皇陛下のご聖断で終戦が行われたように。


評価8.0(サッカー風で言う10点満点 平均点6点)