「トラファルガル海戦物語 −上ー」


トラファルガル海戦物語〈上〉


1805年イギリス艦隊とフランス・スペイン連合艦隊ジブラルタル海峡トラファルガルにて一大海戦を実施。その後大英帝国の礎となった海戦を文献などを参考に詳細に振り返った作品。


士官や水兵の参考文献をよくここまで探したな、というくらいに引用をたくさん用いてきちんと振り返っている。それによって小説とは違う、当時の様子をリアルに再現している。
しかしながら読み進むのは少し難解。船がたくさんあることによってどれを取り上げているのか、や、時間軸も進んだり戻ったり、と把握をしにくい。文献を読み込んで当時の様子を描いているが、ゆえに全体把握やキャラクターによるドラマティックな展開がないことが残念。まあそういうものを求める本ではないのかもしれないが。


その頃の戦争は大砲や銃など、人間の力を超えたものを使って戦いを行う様子が強くなってきた。中世のときは個人の力量によって戦場を切り抜けることも可能ではあったが、大砲など、しかも海上だと自分達の力では及ばないものとなっている。いくら体を鍛えても大砲が1発近くを通っただけで戦死してしまう。


両軍の戦艦が、射程距離範囲外ではあるがどんどん近づいてくる、そのときの兵のプレッシャーたるや想像に絶するものがある。自分達が知らない戦争、いまやあまりない、正面に敵の大部隊を見据える、それでいてパニックにならないのは不思議。小さい頃から教育されていたのかな・・・!?


勢力で勝ったのはフランス・スペイン連合艦隊だが、皇帝ナポレオンは陸戦では天才だが海戦は不得手だったとか。陸戦では伝達および部隊の移動がスピーディーに行うことによってナポレオンの類まれな采配が発揮されたが、伝達や移動が容易に出来ない海戦はやはりその道専門の方法があるようだ。しかしナポレオンは陸での成功体験をそのまま海に持ち込んで、結果的に敗れることになったわけだが、いかに違う分野で成功を収めようともその成功体験でもって他の分野でも成功を収める、ということは難しいことをあらわしている。


もちろん成功体験を持つことは大切だし、その経験を生かして物事をより良い方向に導くことは必要であるが、それに凝り固まって他の意見を聞かなくなるようなことはないようにしていかなければいけないと思う。

評価 5.5(サッカー風で言う10点満点 平均点6点)